●この映画について

冷戦期アメリカの庇護のもとで、日本は第二次世界大戦の荒廃から経済的復興を遂げた。ソ連の崩壊、中国の市場開放、欧州統合とグローバリゼーションの波は、日本の政治に舵を切らせた。世界の中の日本のプレゼンスを高めるための“国際貢献”である。

日本は矛盾と曖昧さの国であるとよく言う。憲法一つをとってもその矛盾は見てとれる。自衛隊の存在と、戦争および軍の保持を禁じた9条。主権在民と天皇の地位の曖昧さ。本作はこれら3本の軸と言える、9条、天皇そして軍隊について、天皇の貴重な映像をはじめ世界中から集めたアーカイブと、いまや鬼籍に入った政治家の田英夫や中川昭一など国内外の論客による秘蔵インタビューを交え、日本の戦後史を問い掛ける。

戦後70年の2015年、敗戦後、日本のたどった歴史をあらためて考えさせられる海外発の注目作である

主な登場人物

 

田英夫(でん・ひでお)

1923年東京生まれ。政治家・ジャーナリスト。

祖父は台湾総督・田健治郎。1943年東京帝国大学入学直後に学徒出陣を経験する。47年東京大学経済学部を卒業後、共同通信社に入社。その後、TBSのニュースキャスターなどを経て、71年、社会党から参議院議員に(当選6回)。78年、社会民主連合を結成し代表となる。1994年、護憲リベラルの会をつくり代表に就任。平和・市民を経て、97年社会党の後身である社民党に入党。2007年引退。09年11月13日死去。享年86。

 

ジョン・ダワー

1938年米国ロードアイランド州生まれ。歴史家。

アマースト大学でアメリカ文学を専攻、58年に来日し日本文学に関心を移し、ハーバード大学大学院に進学後、61年森鴎外の研究で修士号取得。68年ごろから歴史学に転じ、ウィスコンシン大学教授、カリフォルニア大学教授を歴任後、マサチューセッツ工科大学教授に。2010年退職。米国における日本占領研究の第一人者で、米国軍占領下の日本がたどった民主化への過程を描いた「敗北を抱きしめて」は2000年ピュリッツァー賞文芸ノンフィクション部門賞などを受賞。2015年5月に公表された「日本の歴史家を支持する声明」にも名を連ねている。

 

樋口陽一(ひぐち・よういち)

1934年宮城県生まれ。法学者。

東北大法学部卒業後、同学大学院、講師、助教授を経て71年に教授。80年に東京大学教授に転じ、その後、パリ第2大学・パリ第5大学・社会科学高等研究院(EHESS)・フリブール大学(スイス)・上智大学・早稲田大学で教授、客員教授を歴任。故・井上ひさしさんは仙台一高の同級生。菅原文太さんは一級先輩。立憲主義を守る立場の学者らでつくる「立憲デモクラシーの会」「国民安保法制懇」などに加わっている。

 

ベアテ・シロタ・ゴードン

1923年オーストリア・ウィーン生まれ。

ロシアのピアニスト、レオ・シロタ氏が父レオ・シロタは、リストの再来と言われた。5歳の時、山田耕筰の招きで東京音楽学校(現・東京芸大)に赴任した父とともに来日し、少女時代を乃木坂で過ごす。15歳の時にサンフランシスコのミルズ・カレッジへ留学。第二次大戦始まる。1945年、GHQ民政局のスタッフに志願し、滞日中の両親に会うため再来日。22才の若さで日本国憲法の人権条項の草案作成に携わる。その草案は、第14条「法の下の平等」、第24条「両性の平等の原則」などに生かされている。日本政府との交渉には通訳としても立ち会った。97年にエイボン女性大賞、2005年に第9回赤松良子賞を受賞。6ヶ国語(英日露独仏西)に堪能。2012年12月、ニューヨーク市にて逝去、享年89。

 

鈴木邦男(すずき・くにお)

1943年福島県生まれ。

早稲田大学政治経済学部卒業。同大学院中退後、サンケイ新聞社入社。学生時代から右翼・民族運動に関わる。72年に「一水会」を結成。99年まで代表を務め、現在は顧問。テロを否定して「あくまで言論で闘うべき」と主張。愛国心、表現の自由などについてもいわゆる既存の「右翼」思想の枠にははまらない、独自の主張を展開している。著書に『愛国者は信用できるか』(講談社現代新書)、『公安警察の手口』 (ちくま新書)、『言論の覚悟』(創出版)、『失敗の愛国心』(理論社)など多数。近著に『右翼は言論の敵か』(ちくま新書)。

 

葦津泰國(あしず・やすくに)

1937年福岡県生まれ。

父は神道家の葦津珍彦(あしずうずひこ)。大学卒業後、証券関係の会社に勤務。30歳の時に、父の親しかった神社界の人たちに乞われて、父の働きの場の中心であった週刊新聞社に入社。時事問題、政教分離に関する問題や皇室問題、社会問題などを扱う記者となる。その後、編集長、役員、社長職などを歴任し退職。現在は、葦津事務所所長。

 

小森陽一(こもり・よういち)

1953年東京生まれ。国文学者。

北海道大学大学院文学研究科博士課程修了。成城大学助教授を経て、現在、東京大学大学院総合文化研究科教授(日本近代文学)。九条の会事務局長。著書に、「漱石を読みなおす」(ちくま新書 1995)、「ことばの力 平和の力-近代日本文学と日本国憲法」(かもがわ出版 2006)、「あの出来事を憶えておこう 2008年からの憲法クロニクル」(新日本出版社 2014)など多数。

 

五百旗頭真(いおきべ・まこと)

1943年兵庫県生まれ。歴史家。

熊本県立大学理事長、神戸大学名誉教授。専門は日本政治外交史、政策過程論、日米関係論。京都大学法学部卒業後、広島大学法学部助教授などを経て、神戸大学大学院教授、防衛省防衛大学校長、日本政治学会理事長、日本学術会議会員を歴任。文化功労者。サントリー学芸賞、吉田茂賞、吉野作造賞などを受賞。2011年(平成23年)4月に創設された東日本大震災復興構想会議議長を務めた。2012年(平成24年)2月に創設された復興推進委員会委員長を務める。

 

高橋哲哉(たかはし・てつや)

1956年、福島県生まれ。哲学者。

東京大学大学院総合文化研究科教授。20世紀のヨーロッパ哲学を研究しながら、戦争責任や歴史認識の問題に積極的に発言している。著書に『教育と国家』(2004、講談社現代新書)、『靖国問題』(2005、ちくま新書)『国家と犠牲』(2005、NHKブックス)『犠牲のシステム福島・沖縄』(2012、集英社新書)など多数。近著に『フクシマ以後の思想をもとめて:日韓の原発・基地・歴史を歩く』(共著・2014、平凡社)がある。

スタッフ

 

     監督:渡辺 謙一

プロデューサー:オリヴィエ・ミル、渡辺クリスティーヌ

     撮影:エマニュエル・ヴァレット

     編集:ファブリス・タブリエ

     音楽:ジェローム・クレ

     録音:ステファン・ララ

 ナレーション:フェオドール・アトキン

     制作:KAMI Productions, ARTLINE Films, ARTE France

   制作協力:TBS

   宣伝美術:追川 恵子

     配給:きろくびと

 

原題:Le Japon, l’Empereur et l’Armee  2009年/フランス/HDV/90分

2010年 FIGRA映画祭歴史部門コンペティション参加作品

「映画 天皇と軍隊 公式HP」 web site 監督 渡邊謙一 Copyright ©きろくびと All Rights Reserved. LE JAPON, L’EMPEREUR ET L’ARMÉE

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