●コメント

「天皇と軍隊」に寄せて

大山寛恭(TBSテレビ メディア戦略室担当局次長)

 

 渡辺謙一監督より、「天皇」「憲法」を柱に日本の戦後を描くドキュメンタリー構想について制作参加の打診があったのは、2007年12月の事だった。この年参院選で「歴史的大惨敗」した安倍晋三首相は、9月に入って突如辞任を表明し、後任には福田康夫官房長官が就任。打ち出した民主党との大連立構想が頓挫するなど、政治的にも大混乱の年だった。

 

 不安定な政治・社会を背景に、憲法改正手続きを定めた国民投票法が5月に成立。当時、政治部長だった私は、慌ただしく踏み出した憲法改正への動きに、いずれ憲法が正面から問われる時期が来るのではないかと予感した年だった。 そこに、渡辺監督が現れたのだ。

 

 およそ、報道に携わる者にとって、究極のテーマを二つも盛り込もうというのだから、逡巡が無かったと言えば嘘になる。しかも、フランスで放送されるという。公平・公正で中立が法律で求められる日本の放送局にとって、非常に難しいテーマであるのは間違いない。加えて、フランスの視点で描かれる事にスキはないだろうか。

 

渡辺監督とは、結局9ヶ月に及ぶ議論を重ね、TBSは制作協力する形で支えることとなった。日本の戦後について理解してもらうには、格好の論点を提供できるかもしれない。なによりも、多角的な視点を示し、民主主義に資する報道機関として重い社会的責任を強く自覚するに至り、最後は監督との信頼関係を頼みとして、取り組んでみようと決断するに至った。

 

 作品については、あくまで渡辺監督の意思に基づいて創造されたものであり、これに敬意と信頼を寄せながら、TBSは所有する過去の映像記録を提供し、2008年8月の終戦の日等に関わる撮影に協力した。こうした協力は、異例の事であった。

 

 幸いにも、当然のことかも知れないが、フランスでの放送は高い評価を得て、TBSでも、翌年2010年に、地上波のドキュメンタリー番組「報道の魂」と、CSニュース専門チャンネル「ニュースバード」にて、ナレーションを日本語に吹き替えるなどして、作品の一部を放送した経緯がある。

 

 その後、6年を経過して、日本の映画館で本作品がフランス語によるオリジナル版で上映される展開となったのは、協力した者として身の引きしまる思いがする。安保法制についての議論が活発となる中で、戦後の原点について思考を深める一助となれば、幸いである。

 

 

大山寛恭(おおやまひろやす)

1959年東京生まれ。一橋大学社会学部卒。

1983年、東京放送入社。報道局社会部・政治部記者、デスク後、報道特集ディレクター。2003〜05年 スカパーJsat出向、企業広報部長。帰任後、報道局政治部長、デジタル編集部長、デジタル総括担当局次長。2013年から現職。

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